日々稽古する事の重要性について

千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とす。

武術の稽古は薄紙を一枚一枚重ねるようなもの。

古来より武術の稽古は日々怠ることなかれと教えられていますが、現代人はせっかちなので、なぜ毎日稽古しなくてはならないのかと疑問に思う方も多いでしょう。

「1万時間の法則」というアイデアがあります。一流アーティストは20歳までに1万時間のレッスンをした事や、有名実業家の下積みが1万時間だったという研究結果で、詳しくは心理学者のアンダース・エリクソン博士の著「超一流になるのは才能か努力か?」を確認していただければと思います。

研究では、1万時間というのは平均で、1万時間以下で大成する人もいれば2万5千時間以上かかる人もいるようですが、本稿では仮に1万時間の稽古で、一角の武術家になれるとしましょう。

1年間52週を単位として、1週間当たり何時間稽古すれば、何年くらいで一角の武術家になれるのでしょうか?

社会人で武道・武術の稽古をしている方の多くは、毎週、週末に3時間程度の稽古を行っている場合が多いと思いますが、その場合1万時間の稽古を達成するのに何年かかるのでしょうか?

表にしましたのでご覧ください。

横軸は週何時間稽古するか(1~100時間)、縦軸は何年続けるか(1~100年)の表になります。

青が千時間以上、緑が1万時間以上、黄色が5万時間以上、赤が10万時間以上の稽古時間になります。

この表を見れば、日々の稽古が重要であることは一目瞭然です。

週末に3時間だけ稽古する場合、1万時間の稽古を達成するためには、65年かかることになります。

20歳で武術稽古を始めたとしたら、一角の武術家になる頃には85歳になっています。

週1回3時間の稽古では明らかに稽古が少なすぎます。これが現実です。

では毎日稽古沢山すれば良いのかと言えば、例えば、平日8時間週5日の40時間を稽古したとして、1万時間を達成するためには、それでも5年かかることになります。仮に受験生よろしく毎日10時間休みなく稽古して週70時間稽古したとしても、1万時間達成には3年かかります。

武術で生計を立てているならいざ知らず、武士でもない現代人がここまで武術の稽古に時間を割くことは難しいかと思います。

現代でも、自衛隊や警察内で武術・武道を専門に訓練する人は単純計算約5年で1万時間の稽古を達成できる事になります。

週末だけ稽古する人とプロとして稽古する人の間にはそれだけ大きな差が生まれてしまうのです。

プロではない人が生業で働きながら稽古時間を確保するには、週末の稽古だけでなく、いかに日常に稽古を取り入れられるかが重要になります。

朝起きて、出社前30分で突き蹴りの稽古をし、駅まで往復30分の道で歩法の稽古とし、電車の中で15分三戦立ちして、職場の休憩時間に15分突き蹴りの稽古をし、帰宅後に30分間素振りの稽古をする。これでそこまで無理する事無く平日2時間、週10時間の稽古時間を捻出できます。

週末3時間の稽古の前に1時間早く来て自主稽古を行えば4時間、日曜日に土曜日の稽古の復習を2時間すれば、トータルで週16時間の稽古が可能です。

週16時間の稽古を地道に続ければ13年で1万時間のラインに到達します。一方、週3時間しか稽古しない場合は13年たっても、たった2028時間しか稽古できていません。

同じ道場に通っている人間同士でも、天地ほどに実力の差が生まれることがあるのは、単純に日々の稽古量の積み重ねが違うのです。

週3時間の稽古で満足して一切の自主稽古を行わない人は、同じ時期に入門してから日々稽古している人を見て「あの人は才能があるから」と自分の稽古不足を正当化しますが、そのような心のありようでは85歳になっても一角の武術家とは言い難いでしょう。

学生時代に部活動をしていた人は、社会人になって趣味で始めた人にはとても追い付けないほどの技量を持ちますが、その練習量は一般的に平日一日2時間、週10時間を3年間なり4年間、つまり1560時間から2080時間。 朝練を欠かさずに一日3時間練習しても卒業までにせいぜい2340時間から3120時間の練習しかしていませんが、週末趣味で週3時間の練習でそのレベルに追いつくためには10~20年以上の練習が必要になります。

ましてや学生時代は、若く物覚えが良い状態で先輩やコーチ・顧問に指導を受けながらなのでより効率的に上達します。

中学、高校、大学と10年間、平日毎日2時間、欠かさず稽古した場合は、5200時間。このあたりが素人と経験者をわける稽古量のラインなのかと推測されます。週3時間の週末武術家であれば約34年かかる稽古量ですので、そこにはまず追いつけない差があります。しかし、社会人から始めたとしても、何とか日常生活に稽古を取り入れて週16時間の稽古を捻出できれば、単純な稽古量であれば7~8年で追いつく事ができます。

これが日々稽古する事の重要性です。「学生時代にやっていたやつにはかなわない」とあきらめるのは早いです。

当然、稽古内容や効率によって、一定のレベルに達するまでに必要な稽古時間には個人差があります。どういった人に師事するのか、どのような稽古をするのかは、時代やその人の上達の段階によって異なりますので常に稽古は効率を求めて変化させていくべきであります。しかしどれほど効率化しようとも、稽古の平均的な効率が5倍や10倍になるわけではありません、ちょっとした知識やテクニックを教わって早く上達したように見えても、それは稽古を続けていればいずれ誰もが見つける事で、本質的な上達は日々積み上げる稽古にあります。

上達しない事を道具や指導者のせいにする人もいますが、中高生の部活動ならいざしらず、いい年した大人なのですから、自分で考えて道具も指導者も選べるはずです。そして、往々にしてそういう人は稽古量が圧倒的に足りないだけで、無意識のうちに稽古から逃げる口実を探しているだけです。

上達しないのは才能が無いからでも、道具が悪いからでも、指導者が悪いからでもありません、すべては自分の原因、自分の考えが足りないか、稽古が足りないかだけです。武術においては敗北とは死ぬ事と心得なければなりません、今際の際に至って自分の稽古不足を道具や指導者のせいにするつもりですか?

武術稽古の王道は自主稽古、それは地味な突き蹴りや木刀素振りのような反復演練が基本です。楽に劇的に上達する聖杯はありません。

現代では昔よりはるかに稽古の効率は良くできます。ウェアラブルカメラやスマホのある時代、指導者や先輩に見てもらって指摘を受けなくても、自分で動画を撮れば正しいフォームで稽古できているか、良いところ悪いところも気軽に自分の目で見てわかります、しかもスローモーションで見ることも出来ます、昔の剣豪が現代のスマホを見たら、なんと素晴らしい稽古道具かと驚愕し、それを使いこなせない現代の武術家の怠惰を嘆く事でしょう。日々自分の頭で考えて、自分の身体を動かして稽古しましょう。

参考 学歴・資格等取得に要する一般的な勉強時間

義務教育以降の一般社会における学歴・資格等の習得にかかる勉強(稽古)の量について、参考として掲載いたします。

武術の稽古をせずに同じ時間勉強をすればより世の中を生きやすくなるというのに、あえて武術を修めるというのですから武術家という生き方は不器用なものです。しかし、その有限の人生の時間を武術に捧げるからこそ1本1本の突き蹴り、木刀の一振りに重みが生まれます。

限りある人生の時間を無駄にしないように、漫然と稽古するのではなく良く考えて稽古に励みましょう。

要する時間資格等
20狩猟免許取得に要する概ねの勉強時間
50ITパスポート・日商簿記3級・危険物乙4等取得に要する一般的な勉強時間
60普通車免許(学科26時間+技能MT34時間)
250日商簿記2級・基本情報処理技術者(ITパス+200時間程度)
400宅建士取得に要する概ねの勉強時間・予備自衛官補の教育訓練期間(50日)
500応用情報技術者(基本情報+250時間程度)
600行政書士取得に要する概ねの勉強時間
960自衛隊新隊員教育期間(6ヵ月)
1000社会保険労務士・最三種電気主任技術者取得に要する概ねの勉強時間
2590高校卒業資格(74単位*35時間)
3000税理士・司法書士・弁理士等士業資格取得に要する概ねの勉強時間
3500公認会計士取得に要する概ねの勉強時間
8170大学卒業・学士号(高卒+124単位×45時間)
9520博士前期課程課程修了・修士号(学士+1350時間)
10170国家1種試験(学士+2000時間程度)
10420博士後期課程修了・博士号(修士号+約900時間~)
11590学士(医学)単位基準(高卒+約9000時間)・医師免許受験資格
12355法科大学院修了・法務博士専門職 (学士+4185時間)・司法試験受験資格

※ 資格習得にかかる時間は独断と偏見です。前提となる学歴が必要な資格については時間を積み上げています。

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